なぜ「ハッシュ化」だけでは足りないのか?ソルトとペッパーによる多層防御の仕組み

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オンラインサービスの普及に伴い、ユーザーのパスワード管理は企業の信頼性を左右する最重要課題となっています。しかし、単にパスワードを「ハッシュ化」して保存するだけでは、現代の高度な攻撃を防ぐことはできません。

そこで重要になるのが、セキュリティの「隠し味」とも言えるソルト(Salt)ペッパー(Pepper)です。本記事では、これらの技術がどのようにパスワードを保護し、攻撃を困難にするのか、その仕組みを詳しく解説します。

1. パスワードセキュリティの現状と攻撃の脅威

攻撃者がデータベースを狙う最大の理由は、流出したパスワードを他のサービスで使い回す「リスト型攻撃」に利用するためです。従来の単純なハッシュ化(ソルトなし)には、以下のような致命的な弱点があります。

  • 同一ハッシュ値の問題:同じパスワードを使うユーザーが複数いる場合、ハッシュ値が一致するため、一つ解読されると芋づる式に特定されてしまいます。
  • レインボーテーブル攻撃:あらかじめ計算された「パスワードとハッシュ値の対応表」を用いることで、瞬時に元のパスワードを割り出す攻撃です。

2. 「ソルト(Salt)」:ユーザーごとに加えるランダムな文字列

ソルトは、ハッシュ化の前にパスワードへ付加するユーザー固有のランダムな文字列です。

ソルトの仕組みと効果:
例えば、ユーザーAとBが共に「password123」というパスワードを使っていたとしても、それぞれに異なる「ソルト」を付与してハッシュ化することで、生成されるハッシュ値は全く別物になります。これにより、レインボーテーブル攻撃は実質的に不可能となり、一括解読のリスクを大幅に軽減できます。

3. 「ペッパー(Pepper)」:サーバー側に秘匿する共通の鍵

ソルトがデータベースに保存されるのに対し、ペッパー(Pepper)はデータベースには保存せず、サーバー側の環境変数やHSM(ハードウェア・セキュリティ・モジュール)に保管される「秘密の固定値」です。

ソルトとの決定的な違い:
万が一、データベースが流出して「ハッシュ値」と「ソルト」が盗まれたとしても、攻撃者はサーバー内に隠された「ペッパー」を知らなければ、パスワードの照合計算を行うことができません。これにより、データベース単体の流出に対する防御力が飛躍的に高まります。

4. 実践的なセキュリティ強化術:ストレッチングとの併用

ソルトとペッパーに加え、ストレッチング(Stretching)を組み合わせるのが現在のベストプラクティスです。これはハッシュ化を数千回、数万回と繰り返す手法で、1回あたりの計算時間を意図的に遅くします。

  • 総当たり攻撃への耐性:正規のログイン(1回)では気にならない遅延でも、数億回の試行を行う攻撃者にとっては、膨大な時間的コストとなり、攻撃を断念させる効果があります。
  • 推奨アルゴリズム:Argon2、bcrypt、PBKDF2といった、ストレッチングが組み込まれた強力なアルゴリズムの採用が推奨されます。

5. まとめ:パスワードレス時代へ向けて

ソルトやペッパーは、現在のパスワード認証を支える極めて重要な技術です。しかし、将来的な量子コンピュータの登場や攻撃手法の進化を見据え、FIDO2に代表される生体認証(パスワードレス認証)への移行も始まっています。

まずはソルトとペッパーによる「正しいハッシュ化」を徹底し、その上で次世代のセキュリティ技術を取り入れていく多層的な姿勢が、これからのIT環境には求められます。

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