よく聞くけれど分かりにくい? セキュリティ・バズワード徹底解説

セキュリティの世界では、毎年のように新しい概念やソリューションを示す用語(バズワード)が登場します。これらは、従来の対策では防ぎきれない新たな脅威や、働き方の変化(クラウド化・リモートワーク)に対応するために生まれたものです。
この記事では、特に重要ないくつかのバズワードをピックアップし、「結局、何が新しいのか」「なぜ必要なのか」を分かりやすく解説します。
目次
1. ゼロトラスト (Zero Trust)
「何も信頼しない」を前提とするセキュリティの考え方
- これは何か? 「ゼロトラスト」は、特定の製品ではなく、「社内ネットワークは安全、社外は危険」という従来の境界線の考え方を捨て去るセキュリティモデル(考え方)です。
- なぜ必要か? 従来は「城と堀」のように、ファイアウォール(城壁)で社内ネットワーク(城)を守る「境界型防御」が主流でした。しかし、以下の理由でこのモデルが崩壊しました。
- クラウドサービスの普及: 保護すべきデータやシステムが「城の外」(クラウド)に存在するようになった。
- リモートワークの一般化: 社員(城の住人)が「城の外」から仕事をするようになった。
- 内部不正やマルウェア感染: 一度「城の中」に侵入されると、内部では自由に動けてしまう脆弱性があった。
- ゼロトラストのアプローチ: 「何も信頼せず、全てを検証する(Trust No One、Verify Everything)」という原則に基づき、アクセスがあるたびに、以下の要素を毎回確認します。
- 誰が(ユーザー認証)
- どの端末で(デバイスは安全か)
- どこから(不審な場所ではないか)
- 何に(アクセス権限はあるか) アクセスしようとしているのかを検証し、許可された最小限のアクセスだけを許可します。
2. XDR (Extended Detection and Response)
「点」ではなく「面」で脅威を捉えるサイバー攻撃対策
- これは何か? PCやサーバー(エンドポイント)の監視に特化した EDR (Endpoint Detection and Response) を、さらに拡張(Extended)させたものです。
- なぜ必要か? サイバー攻撃は非常に巧妙化しており、攻撃者はPCだけでなく、メール、クラウド、ネットワーク機器など、複数の経路を組み合わせて侵入を試みます。EDR(PCの監視)だけでは、攻撃の全体像が見えにくいという課題がありました。
- XDRのアプローチ: PC、ネットワーク、クラウド、メールなど、組織内のさまざまなセキュリティ製品からログ(操作記録)を一元的に収集します。それらをAIなどで横断的に分析することで、個別の製品では見逃してしまうような「巧妙な攻撃の兆候」を早期に検知し、迅速に対応(Response)することを目指します。
3. SASE (Secure Access Service Edge)
ネットワークとセキュリティをクラウドで一つにまとめる
- これは何か? 「サシー」と読みます。従来のネットワーク機能(例:SD-WAN)と、セキュリティ機能(例:ファイアウォール、Webフィルタリング)を、クラウドサービスとして一元的に提供するアーキテクチャです。
- なぜ必要か? リモートワークが普及し、社員が自宅や外出先など様々な場所からクラウドサービス(Microsoft 365、Salesforceなど)へ直接アクセスするようになりました。 従来のやり方(一度本社のデータセンターを経由)では、通信が混雑して遅延が発生したり、セキュリティ管理が複雑になったりする問題がありました。
- SASEのアプローチ: ユーザーがどこにいても、最寄りのSASEのクラウド拠点(PoP: Point of Presence)に接続させます。そこでネットワーク制御とセキュリティチェックをまとめて行うことで、「いつでも、どこからでも、安全かつ快適に」クラウドや社内システムにアクセスできる環境を実現します。
4. サプライチェーン・セキュリティ (Supply Chain Security)
「取引先」や「使う部品」も含めて全体で安全を確保する
- これは何か? 自社だけでなく、製品やサービスが顧客に届くまでの一連の流れ(サプライチェーン)に関わる全てのリスクに注目するセキュリティ対策です。
- なぜ必要か? 攻撃者は、セキュリティ対策が強固な大企業を直接狙うのではなく、セキュリティが手薄な取引先(部品メーカー、開発委託先など)を踏み台にして、本命の企業へ侵入するケースが増えています。 また、ソフトウェア開発においても、利用するOSS(オープンソースソフトウェア)やライブラリに脆弱性が潜んでいると、それが自社製品の弱点となります。
- サプライチェーン・セキュリティのアプローチ:
- 取引先のセキュリティ評価: 取引先が適切なセキュリティ対策を行っているかを確認・管理する。
- ソフトウェア部品表 (SBOM): ソフトウェアがどのような部品(ライブラリ)で構成されているかを管理し、脆弱性に対応できるようにする。
5. DevSecOps (デブセックオプス)
開発の「最初から」セキュリティを組み込む
- これは何か? アジャイル開発などで使われる DevOps (開発 + 運用) の考え方に、Security (セキュリティ) を統合したものです。
- なぜ必要か? 従来の開発では、機能がすべて完成した「最後」の段階でセキュリティ検査を行うことが一般的でした。しかし、この方法では、もし重大な脆弱性が見つかった場合、修正に多大なコストと時間(手戻り)が発生します。
- DevSecOpsのアプローチ: 開発プロセスの企画・設計段階からセキュリティを考慮し、コーディング中やテスト段階でも自動化ツールなどを使って継続的にセキュリティチェックを行います。「セキュリティは後から追加するものではなく、最初から組み込むもの」という文化を醸成し、安全なソフトウェアを迅速にリリースすることを目指します。
まとめ
これらのバズワードに共通しているのは、「境界」が曖昧になり、攻撃が高度化する現代において、従来の「守りを固める」だけの対策では不十分だという認識です。
- ゼロトラスト: 常に疑い、毎回検証する
- XDR: 監視範囲を広げ、攻撃の全体像を捉える
- SASE: どこからでも安全・快適にアクセスできる環境をクラウドで実現する
- サプライチェーン・セキュリティ: 自分だけではなく、繋がり全体のリスクを管理する
- DevSecOps: スピードと安全性を両立させる開発体制を築く
これらの概念を理解することは、現代のセキュリティリスクに適切に対応するための第一歩となります。
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