セキュリティエンジニア(顧客向け)とは

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サイバー攻撃が高度化・複雑化する中、企業が自社だけですべてのセキュリティ対策を完結させることは困難になっています。そこで活躍するのが、顧客(企業)に対して専門的なセキュリティ技術を提供する「顧客向けセキュリティエンジニア」です。

この記事では、SIerやベンダーに所属するセキュリティエンジニアの具体的な仕事内容、コンサルタントとの違い、キャリアパスについて詳しく解説します。


 

1. セキュリティエンジニア(顧客向け)とは?

 

顧客向けセキュリティエンジニアとは、SIer(システムインテグレーター)、セキュリティベンダー、MSSP(マネージドセキュリティサービスプロバイダ)などに所属し、顧客企業に対してセキュリティ製品の導入や専門的な技術サービスを提供するエンジニアのことです。

自社のシステムを守る「社内セキュリティエンジニア(事業会社所属)」とは異なり、顧客の課題を解決することがミッションとなります。

セキュリティコンサルタントが描いた「戦略(Why/What)」に基づき、それを技術(How)で「実装(Build)」する、セキュリティ対策の実行部隊と言えます。


 

2. 仕事内容:3つのフェーズ

 

顧客向けセキュリティエンジニアの仕事は、プロジェクトのフェーズに応じて大きく3つに分類されます。

 

① 提案フェーズ (プリセールス / セールスエンジニア)

 

営業担当者に同行し、技術的な専門家として顧客の課題をヒアリングし、自社が提供できる最適な「解決策」を提案する役割です。

 

  • 技術ヒアリングと課題分析:「ランサムウェア対策が不安」「ゼロトラストを実現したい」といった顧客の要望に対し、現状のシステム構成や課題を深く掘り下げます。
  • ソリューション提案と製品デモ:Palo Alto、CrowdStrike、Zscalerといった具体的な製品(自社が扱う商材)を用い、技術的な優位性や導入効果をデモンストレーションします。
  • 技術検証 (PoC) の支援:本格導入の前に、「本当にこの製品で課題が解決できるか」を顧客環境でテスト(PoC: Proof of Concept)するのを支援します。

 

② 設計・構築フェーズ (インテグレーション)

 

受注が決まった後、実際に顧客の環境にセキュリティシステムを設計・構築(導入)する、SIerの「本業」とも言える業務です。

 

  • 要件定義と設計:顧客の要望に基づき、導入する製品(ファイアウォール、EDR、SASEなど)の具体的な設定値やネットワーク構成を決定し、設計書を作成します。
  • 製品の導入・設定 (インテグレーション):顧客のデータセンターやクラウド環境(AWS/Azure)に機器やソフトウェアをインストールし、設計書通りに設定作業を行います。
  • テストと稼働:導入したシステムが正しく動作するか、既存の業務システムに悪影響を与えないかを徹底的にテストし、本番稼働に立ち会います。

 

③ 運用・監視フェーズ (MSP / MSSP)

 

システム導入後、その運用や監視を顧客に代わって行うサービスです。

 

  • MSP (Managed Service Provider):導入したセキュリティ機器(ファイアウォールなど)が正常に動作しているか、設定変更が必要ないか、パッチ(修正プログラム)は適用されているかなど、日常の運用を代行します。
  • MSSP (Managed Security Service Provider):顧客のSOC(セキュリティ・オペレーション・センター)業務を代行します。24時間365日体制でセキュリティログを監視・分析し、サイバー攻撃の兆候を検知します。インシデント発生時には即座に顧客へ通報し、対応(例:端末の隔離)を支援します。

 

3. セキュリティコンサルタントとの違い

 

両者は密接に連携しますが、役割が明確に異なります。

 

観点セキュリティエンジニア(顧客向け)セキュリティコンサルタント
主なミッション技術による「実装・実行」戦略による「助言・意思決定支援」
フェーズ設計・構築・運用 (How / Build)戦略・企画・要件定義 (Why / What)
成果物動作するシステム、設計書、監視レポート戦略ロードマップ、ポリシー規程、評価報告書
立場製品・技術のプロフェッショナル経営・戦略のアドバイザー(中立)

 


 

4. 必要なスキルと資格

 

顧客と直接対話し、最先端の「武器」を実装するエンジニアには、高度な技術力が求められます。

 

必要なスキル

 

  1. 特定製品への深い知識:自社が取り扱う主力製品(例:Palo Alto、Fortinet、CrowdStrike、Zscaler、Oktaなど)の設計・構築に関する深い知識と経験が必須です。
  2. 広範なITインフラ技術:セキュリティは「土台」の上に乗るため、ネットワーク(TCP/IP、ルーティング)、OS(Windows、 Linux)、クラウド(AWS、Azure)の知識が不可欠です。
  3. 顧客折衝・コミュニケーション能力:顧客の技術的な疑問に的確に答えたり、複雑な設定内容を分かりやすく説明したりする能力が求められます。
  4. 論理的思考と問題解決能力:「通信ができない」「アラートが鳴った」といったトラブルに対し、原因を切り分けて特定し、解決する能力が求められます。

 

有効な資格

 

  • ベンダー資格(最重要):取り扱う製品のベンダーが認定する資格(例:Palo AltoのPCNSE、CiscoのCCNP Securityなど)は、スキルの直接的な証明となります。
  • 基盤技術の資格:CCNA/CCNP(ネットワーク)、LPIC(Linux)、AWS/Azure認定(クラウド)
  • セキュリティ基礎資格:情報処理安全確保支援士(RISS)、CompTIA Security+

 

まとめ

 

顧客向けセキュリティエンジニアは、サイバーセキュリティの最前線で、最新の「武器(製品)」を駆使して顧客を直接守る、技術のエキスパートです。

「戦略立案も興味があるが、まずは手を動かして技術を極めたい」「多様な業界のセキュリティ課題に触れたい」という方にとって、非常にやりがいのあるキャリアと言えるでしょう。

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