リスク・ITガバナンスコンサルタントとは

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デジタルトランスフォーメーション(DX)が企業の成長に不可欠となる一方、サイバー攻撃や大規模システム障害は、企業の存続を脅かす重大な経営リスクとなっています。

この「ITによる価値創造(攻め)」と「ITリスクの管理(守り)」という相反する要求を、経営層の視点から両立させる専門家が「リスク・ITガバナンスコンサルタント」です。

この記事では、経営とITの「橋渡し役」として極めて重要な役割を担う、この職種の仕事内容と必要なスキルについて解説します。


 

1. リスク・ITガバナンスコンサルタントとは?

 

リスク・ITガバナンスコンサルタントとは、企業の経営目標を達成するために、IT(情報技術)が適切に統治・管理・活用されるための「仕組み(ITガバナンス)」を設計・導入・評価する専門家です。

経営層(社長、CFO、CISOなど)や監査役会の「参謀」として、「IT投資は適切か?」「ITによるリスクは許容範囲内か?」といった経営の意思決定を支援します。

 

  • ITガバナンス: 企業がITを効果的かつ適切に活用するための「統治・管理体制」。
  • リスク: システム障害、セキュリティ事故、法令違反、ITプロジェクトの失敗など、IT活用に伴うあらゆる不確実性。

 

2. なぜ今、この役割が重要なのか?

 

現代の企業経営において、「経営」と「IT」は不可分です。しかし、多くの企業では以下のような「溝」が存在します。

 

  • 経営層: 「IT部門が何をやっているか分からない」「DXを進めたいが、リスクが怖い」
  • IT部門: 「経営層がITの重要性を理解してくれない」「セキュリティ予算が通らない」

 

リスク・ITガバナンスコンサルタントは、この「溝」を埋める翻訳者・調整役として、ITを「コストセンター」から「経営戦略のパートナー」へと変革させる役割を担います。


 

3. 具体的な仕事内容

 

業務は多岐にわたりますが、大きく「守り」と「攻め」の領域に分かれます。

 

① 守りのガバナンス(リスクとコンプライアンス)

 

IT活用に伴うリスクを特定・評価し、それが許容範囲内に収まるよう管理(統制)する仕組みを構築します。

 

  • ITリスク管理体制の構築:システム障害、サイバー攻撃、情報漏洩、内部不正といった「システムリスク」を全社的に洗い出し、評価・分析するプロセスを設計します。
  • IT内部統制(J-SOXなど)の構築・評価:財務報告の信頼性を確保するため、会計システムなどが正しく運用されているかを評価・支援します。(CISAの領域と重複します)
  • コンプライアンス対応支援:個人情報保護法、金融機関向けのFISC、クレジットカードのPCI DSSなど、企業が遵守すべき法令や業界基準に対応するための体制構築を支援します。
  • システム監査・内部監査の支援:企業がITガバナンスやIT統制を自己点検するための「監査(チェック)」の仕組み作りや、監査の実施を支援します。

 

② 攻めのガバナンス(ITの価値最大化)

 

ITが確実にビジネスに貢献し、投資対効果(ROI)が最大化されるための仕組みを構築します。

 

  • IT戦略と経営戦略の連動:「全社DX推進」といった経営目標に対し、それを実現するためのIT戦略が整合しているかを評価し、助言します。
  • IT投資対効果の評価:「そのIT投資は本当に必要か?」「期待した効果が出ているか?」を測定・評価する基準(KPI)作りを支援します。
  • IT部門の組織・プロセス改革:IT部門が経営に貢献できる組織となるよう、ITIL(ITサービスマネジメントのベストプラクティス)などに基づいた業務プロセスの改善を支援します。

 

4. セキュリティコンサルタントとの違い

 

この2つの職種は密接に関連し、特にBig4系ファーム(PwC、Deloitteなど)では同じ部門に属することも多いですが、焦点が異なります。

 

観点リスク・ITガバナンスコンサルタントセキュリティコンサルタント
主な領域IT経営全体サイバーセキュリティ
扱うリスクシステム障害、プロジェクト失敗投資効果、法令違反、セキュリティサイバー攻撃、マルウェア、 情報漏洩、脆弱性
視点経営・監査・統制の視点(より広く)脅威・防御の視点(より深く)
主要フレームワークCOBIT、 ITIL、 J-SOXNIST CSF、 ISO27001

 

簡単に言えば、「セキュリティコンサルタント」が「サイバー攻撃」という特定の脅威に対する深い専門家であるのに対し、「ITガバナンスコンサルタント」は、セキュリティリスクを含む「ITに関するあらゆるリスク」を経営視点で扱う、より広範な専門家です。


 

5. 必要なスキルと資格

 

経営層と対等に渡り合うための高度なスキルが求められます。

 

  • ITと経営の翻訳能力:技術的なリスクを「経営インパクト(金額、評判)」に、経営戦略を「IT要件」に翻訳する最も重要な能力。
  • フレームワークの知識:COBIT、 ITIL、 NIST、 ISOなど、ガバナンスやリスク管理の国際的な「型(フレームワーク)」に関する深い知識。
  • 高度なドキュメンテーション能力:経営層を納得させる報告書、規程類、評価シートを作成する能力。
  • プロジェクトマネジメント能力:企業全体の「仕組み」を変える大規模な変革プロジェクトを推進する能力。

 

有効な資格

 

  • CISA(公認情報システム監査人):ITガバナンス、統制、監査の領域で最も信頼される国際資格です。親和性が非常に高いです。
  • CISM(公認情報セキュリティマネージャー):セキュリティ「マネジメント」と「ガバナンス」に焦点を当てた資格です。
  • ITストラテジスト試験(国家資格):ITを活用した経営戦略の策定能力を証明する国内最難関資格の一つです。
  • PMP(Project Management Professional):プロジェクトマネジメントの国際標準資格です。

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