防衛省、「宇宙領域防衛指針」を策定—強靭な衛星通信と多層ネットワークで有事対応を強化

防衛省は2025年7月、「宇宙領域防衛指針」を策定し、宇宙を「作戦の基盤」として位置付ける姿勢を明確化した。その中核は、電磁妨害(ジャミング)やキネティック攻撃、サイバー攻撃が同時多発的に発生しても、指揮・統制・情報共有(C2/ISR)を維持する「強靭(レジリエント)な衛星通信」の確保である。
背景
ウクライナ紛争や台湾有事を踏まえ、防衛省は「有事でも確実に通信がつながること」を前提に、大容量通信の維持を要件として設定した。従来の静止衛星(GEO)中心の構成は広域カバーには強いものの、特定周波数帯や固定局への攻撃に弱い課題があった。また、地上網も光ファイバ・移動体網・海底ケーブルを含め、物理的切断や電力喪失、サイバー侵入といった複合的リスクが残る。こうした状況を踏まえ、多層・冗長・相互運用を柱とする新たな通信網の整備方針が打ち出された。
宇宙~地上を貫く多層ネットワーク
指針では、低軌道(LEO)・静止軌道(GEO)衛星、成層圏プラットフォーム(HAPS)を組み合わせた「多層・冗長の大容量通信網」を段階的に整備する方針を明記。電磁妨害や衛星損耗、地上局被害、サイバー攻撃があっても通信を持続させることを目指す。さらに、無人アセットや高分解能センサ、長距離精密打撃の一般化により、ネットワークに流れるデータ量は急増しており、単なる通信確保から「大量データを隠密かつ迅速に処理・伝送する」能力への移行が求められる。
サイバー防御とAI活用
衛星と地上セグメントを一体で守るサイバーセキュリティ対策を強化。地上局の分散配置、アクセス制御、監視の高度化により、攻撃面を縮小しつつレジリエンスを向上させる。また、衛星上でAI処理を行い、大量データを即時に要約・抽出して必要情報のみを双方向で提供する構想も検討されており、通信帯域の効率化と意思決定の高速化を同時に実現する。
官民・同盟国との連携
宇宙通信は官のみでは完結せず、国内産業や民間衛星、クラウド基盤の活用、同盟国との相互補完が不可欠。共用・相互接続により効果は飛躍するが、契約・認証・運用ルールが不十分だとリスクが増大するため、インターフェース統一や運用責任の明確化、サイバー・物理の監査、優先制御ルールの整備など、平時からの積み上げが成果を左右する。
防衛省は、こうした多層・冗長ネットワークと強靭な衛星通信の構築を通じて、宇宙領域を含む有事対応力の強化を図る方針である。
引用元記事:https://rocket-boys.co.jp/security-measures-lab/japan-mod-builds-large-scale-network-cyber-defense/



